sss_blog of Bangusetu2008

Last Updated 2011-02-27

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黒猫とタンゴ?

にゃんこバトンを受けて ゾロとロビン

黒猫とタンゴ?

夜のしじまに歓声が響きわたる。
「罰ゲェム! 罰ゲェ〜〜ム!」
ルフィとウソップが指笛とお手製の太鼓を叩いて囃したてる。それを笑顔で見ているロビン。彼女は小首を傾げて、静かに、しかしとても楽しそうに言ったのだ。
「…『船長命令』にはしたがわなきゃね」
「オウ!」
「ロビ〜ン。これ、オプション。ちゃんと着けてね♪」
小悪魔の笑みを浮かべてナミが差し出したものを見て、俺はぎょっとした。……オイ、まさか、本気でやる気じゃ……。
「楽しみだな! なっ、ゾロ!!」
「ルフィ……勘弁してくれ」
「シシシッ…………ムッツリなお前も、これならいいだろ」
「テメェ……ワザとかよ」
もはや溜め息しか出てこない。酒のせいではない頭痛に、顔をしかめて目線を上げれば、ヤロー共(チョッパー除く)のにやけた顔とぶちあたる。チョットマテ、
「お前ら、なんで視線を逸らすんだ……」
「まぁ、せいぜいがんばれ、エロマリモ」
クソコックが憐れみを込めた視線で俺を見た。



だから、これは、なんの試練だ。
甲板で昼寝をしようと思った矢先に、目の前を猫が通りすぎる。
薄目を明けて姿を追えば、長い尻尾を揺らめかせて、ラウンジへ消えていった。
「コックさん、喉が渇いたにゃん。コーヒーをいただけるかにゃん?」
「うほ〜v 可愛いキティちゃん! ようこそっ。ささっ、こちらへどうぞ」
「ありがとにゃん。似合ってるかにゃ?」
「最高にキュートだよ。さ、コーヒーと一緒にサブレもどうぞ」
「ふふ。美味しいにゃん」
「シヤワセー!!!」
─黙れ、エロコック。

「いや〜、ここまでジャストフィットとは思わなんだ」
「アラ、はじめから我輩用かと思っていたにゃん」
「あ〜……、実はココだけの話、当初はサンジ君を嵌めようと思っていたのだよ」
「にゃ? それなら……我輩でよかったのかにゃ?」
「問題ない! むしろ、今オレは自分を褒め称えたい気分だ」
「我輩も、楽しいにゃ」
「あ、ロビンここにいた! 撫でてもいいか?」
「いいにゃ」
「あ、あの、ロビン、おれもさわっていいかな?」
「船医さんにゃら大歓迎にゃん。今日は一日、おんにゃじにゃ〜」
「わー! ロ、ロビン、可愛いなっ」
─お前だって最近、とみに可愛いくなってる自覚あるのか、チョッパー。てか、お前ら

「なんで、わざわざ、俺の傍で遊ぶんだ」
「うにゅ?」
「シシシ。嫌がらせ」
「試練だよ、ゾロくん」
「てめェらァッ!!!」
「わー!マリモが怒ったぁ!」
「わー!」
「きゃー」

勘弁してくれ。

「……剣士さんは、気に入らにゃい?」
「……そんなんじゃない」
「にゃら、にゃんでそんにゃに怒った顔してるのにゃ?」
瞳をぱちくりさせて、小首を傾げるな。お前、自分がどんな姿なのか知ってるのか?
「だって、コレ着けたの我輩にゃ」
「そ、う、だな」
「にゅ〜。剣士さんは可愛いものが好きって聞いたから頑張ってみたにゃん。……気に入らにゃい?」
むしろ大歓迎だから困るんだよ。
「やっぱり、こういうのは航海士さんのほうがいいのかにゃ?」
「イヤ、お前でいい」
いかん─即答してしまった。
「剣士さん?」
「だぁっ! クソッ!!!」
目の前の黒猫を腕に抱え込む。「にゃっ!?」って、咄嗟の悲鳴まで猫真似たぁ、徹底してるな。……以外と冷静だな、俺。
下から見上げてくる瞳を覗き込みながら、奇麗に切りそろえられた前髪を指先で撫ぜる。頭の上に着けられた「猫耳」はどこで手に入れたのか知らないが、やけに手触りがいい。きょとりと瞬きを繰り返す黒猫に、俺は笑った。本物の耳を擽ると、微かに頬が赤くなる。気をよくして顔の輪郭に沿うように指を滑らせ、頤を擽る……本物の猫をあやすように。つんと形よい鼻先を一舐めしてやる。
「にゅ?」
「遊んでほしけりゃ、遊んでやるよ」
「…その気になってくれたのにゃ?」
「むしろ我慢の糸が切れた。……ちょっかい出した責任を取ってもらうからな」
オプションだとかいってウソップが着けやがった「尻尾」のつけ根周りを揉みながら、俺は奇麗で大きな黒猫を抱き上げた。
「イタズラ仔猫には『お仕置き』が必要だしな」
「にゃぁ〜ん」
笑いながら頬をすり寄せてくる猫の胸をひとなでして、前方甲板を振り返る。
「おい船長! ちょいと「しつけ」で猫と籠るから邪魔すんなよ」
「いいけどよ〜。ゾロ〜晩飯までには終らせろよ〜」
「終らせろよ〜」
「……ウソップ、てめェはあとで覚えてろ」
「イヤヨ、ワタシ、今日一日トリアタマ」
くねくねと身体を揺らしてウソップがおどけるのを視界の端で捕えながら、俺は空いている部屋の扉を開けた。

たまには、猫と遊ぶのも悪くない。

blog update:2007.02.17

サイン

※サンウソサン

サイン

昼下がりのキッチン。
ボウルの中の卵白を高速で泡立てていた手を不意に止めて、サンジはウソップ工場へと身体を向けた。

「なぁ、ウソップ。お前って、おれのどこを見ておれだと認識してる?」
「へ? ……また、いきなりだな、サンジ」
「いいから答えろ」

メレンゲを絡ませたまま、泡立て器をビシィッ!!! とウソップへと突きつけて、サンジは凄んだ。
突飛な言動に少々腰が引けつつもウソップはサンジの瞳が存外に真剣なのを見て、茶化すのをやめた。
工場に広げた部品を邪魔にならぬように片隅へと寄せて、胡床をかきなおす。膝に肘をつけて、まじまじとサンジの顔を見つめながら、ウソップはやがてニコリと笑って口を開いた。

「眉毛だろ、丸い金色頭に、ヒゲ、煙草、クソクソ言う口癖に……」
「おい、コラ」
「足癖の悪さに、スネ毛に。女と見ればメロリンする態度に…」
「ウーソーップー」
「なんだよ、お前が言えって言うからだろ」
「お前はそんな目でしかおれを見てねェのか」
「仲間をほっとけねェところ、ほんとは男にだって優しいところ、料理が美味いところ」
「…………おれが知りたいのは」
「やせ我慢するところ、無茶してでも仲間を守ろうとするところ、自分を後回しにするところ」
「なんか、今のとこ棘を感じたんだけど?」
「あと、…………こんなオレを好きとかいってくれちゃうところ」
「……ウ」
「サンジがサンジだから、サンジだって解るし、そういうところにオレは惚れたんだ」
「……」
「だから、何があってもどんなときでも、サンジがサンジを捨てない限り、オレはサンジを見失わねェし、見つけて欲しけりゃ探し出してやるよ」
「……テメェ、今の言葉しっかり覚えとけよ。そんでもって責任とれよ」

頬に上がる熱に、急に恥ずかしくなってサンジは慌てて俯いた。腕の中で抱えたままのボウルから、ふわりとメレンゲが飛び跳ねて、再びボウルの中に着地する。
もう充分に泡立てたメレンゲになおも泡立て器を入れるサンジの、菜の花色の髪から覗く耳が真っ赤に染まるのをくすぐったい気持ちで見つめながら、ウソップはくすりと笑い、ゆっくりと工場から立ち上がった。軽く埃を払い、キッチンを覗けるカウンター席へと足を踏み出す。

たまには不意打ちのキスでも仕掛けてみようか──?

blog update:2007.04.09

小悪魔の笑顔

なんとなく、アイドルなロビンちゃん。

小悪魔の笑顔

一番、分別ある大人だと思っていた。いや、思わされていたのかもしれない。
ナミとサンジとゾロは、目を丸くして目の前に光景に釘付けだ。
芝生の甲板で少し遅めのおやつ。
いつもと違うのはシートを広げて、さながらピクニック気分を満喫といった様相なだけ。
確かにはじまりはそうだったのだ。
なのに今は、そんな空気など微塵もなく、あるのは、突き抜けた馬鹿笑いの合唱が大空へ響きわたっている。

「あっひゃっひゃっひゃっ!!」
「うおぅっと!? 危ねェッ!!」
「ウソップ下手くそだなぁ」
「あはははっ」

いつものお子さまトリオに混ざって、今日は、笑い声が一つ増えている。


甲板で食べたいから、という船長たっての希望で(プラス8割は船医の嘆願である)サンジが用意したおやつは、ドーナツだ。シンプルなプレーンに始まり、チョコ、ストロベリー、蜂蜜、アイシング、カラースプレー、カスタードクリーム、ごま、等々、見た目も味も千差万別なものが大皿に山と盛られて用意された。
各々お気に入りのカップにこれまたお茶や紅茶、コーラに珈琲、ミルク、と好きな飲み物を注いでののんびりした午後の時間。
勢いよく食べていたルフィが、ふと仲間の様子を窺うと、みんなとちょっとだけ違う食べ方をしているクルーがいた。ロビンだ。

「なぁ、ロビン。それだと食いづらくねェか?」
「ええ。けれど、このやり方は女性としてはおおむね普通だと思うわよ?」
「そうかぁ? ナミはそんな風に食べたりしねェぞ」
「そこ!一言多い! いいじゃない、面倒くさいんだもの。言っときますけど、アタシだって街に降りればロビンのように食べるわよ」
「そうね。航海士さんも外ではちゃんと今の私のように食べたりするわよ」
「でもここは船だろ?……ロビンは、俺たちみたいに食ってみようとは思わないのか?」
「興味はあるけど……」
「なら、食え!」

ルフィは自分の皿から、プレーンドーナツを掴み取ってロビンの口元へ突き出す。ロビンはほんの少し唇に触れた感触に驚いて、思わず受け取ってしまった。どうしようか暫し逡巡したものの、向日葵のようなルフィの笑顔に負けた。

興味津々のクルーの視線がこそばゆかったが、ロビンは思いきってドーナツに齧り付いた。
本当は、ずっと前からやってみたかったのだ。けれど、今まで自分が作りあげてきた仕草や、何より年齢が邪魔をしていた。

「な、こっちのほうが美味ェだろ?」
「ルフィ、せめてロビンが口の中のものを食い終わるまでまってやれ」
「…………ええ、美味しいわ」
「だろ! サンジのドーナツはすんげェ美味いけどな、そうやって齧ったほうがうんと美味ェんだ」
「本当ね。知らなかったわ」
「ロビンちゃん、ルフィに合わせなくてもいいんだぜ?」
「いいえ、コックさん。本当にこっちのほうが美味しいのよ、ふふふっ」
「ロビン、ロビン!こっちも美味しいぞ!はいっ」

あーん、して。とチョッパーが無邪気な笑顔で棒状のクリスピータイプを差し出す。ロビンは、ぱちりと瞬きをして、それからふんわり笑うと、あーん、と大きく口を開けて齧り付いた。
その光景に、今度はゾロが驚き、そうして何故か顔を真っ赤にした。なんというか、横顔が可愛らしかったのだ。

「ロッビーン、こっちも美味いぜ。こぼれるから気をつけな」
「まぁ、美味しそうね長鼻くん。貴男のデコレート?」
「おうっ。スペシャルよ!」
「んふふ。いただきます」

ウソップがくれたのはチョコスプレーでカラフルに彩られた一口サイズのチョコドーナツ。ロビンはウソップが差し出したままに口にする。唇から逃げ出そうとするチョコスプレーに慌てて手で受け止めると、手のひらがチョコまみれになってしまった。どうしようか。ふと視線を上げるとルフィがすっかり空になった皿を意地汚く舐めまわしていた。
再び自分の手のひらへと視線を戻したロビンは、躊躇いなく手のひらのチョコを舐め取った。

「ロ、ロビンちゃんッ!!?」
「おまっ、何やってんだッ!!?」

サンジとゾロが顔を真っ赤にして揃って大声を上げた。ロビンにその気はないのだが、ルフィ達に合わせていつもよりも子どもっぽい所作。それを無自覚に振る舞う彼女は、陽光の下にもかかわらず、妙な色艶が溢れていたのだ。

「なんだー? お前ら顔真っ赤だぞ?」
「……察してやれよ、ルフィ。アイツら、今ちょっぴりアブナイから」
「二人とも……熱中症かな?」
「ある意味そうかもな。あれで精神年齢幼いときあるからな、ニコ・ロビンのヤツ」
「そこは『カワイイ』って褒めておけよフランキー」
「ま、アイツらのほうが年下だからロリコンには間違ってもならねェわな」
「さすが変態……視点が違うわ」

フレンチクルーラーを頬張りながら、ナミは温い眼をロビンに向けた。彼女はルフィと残りのドーナツを手づかみで食べることに夢中だ。周囲の視線などお構いなしにルフィと一緒になってはしゃぐ姿を見るのは嬉しいけれど……。

「ロビンって、時々もの凄くルフィ並にお子さまになるのよね。いまいちスイッチの入り具合がわかんないんだけど」
「止めねェのか?お姉ちゃんよ」
「冗談でしょ、あんなに楽しそうなのに」
「だな、……オウ、そこの緑と黄色! テメェらはこっちで茶ァでもしばいとけ」


達観した航海士と船大工の言葉は、ロビンに釘付けの剣士とコックの耳には届かなかった。

blog update:2007.05.16

カワイイ?

ルナミでゾロロビでサンウソで、チョッパーお兄ちゃん。

カワイイ?

乗組員は10人足らず、全員が賞金首なうえに懸賞金総額は6億ベリーを超える麦わら海賊団。悪魔の実の能力者である船長を筆頭に、クルー誰もが並外れた身体能力を持つ「化物」揃いの海賊団だ。
しかしてその実態はというと、
「ウソップ、チョッパー! かくれ鬼しようぜ!」
「おれ今日はブランコがいいな」
「待てまて! 昨日完成させた、このスーパーミラクル釣竿の試し釣りをしねぇか?」
至極微笑ましくも、年齢を疑いたくなる会話が聞こえてくる。
ラウンジの扉が開くと中からナミとロビンが笑いながら出てきて、芝生甲板で団子になってじゃれあう三人に声をかけた。
「ちょっとアンタ達、洗濯物さっさと洗いなさい!」
「でないと、おやつはお預けですって」 
「エエッ!」
「お、おれはちゃんと洗ったぞ!」
「なんだと! チョッパー、ズリィ!」
「フフッ。チョッパーは私たちとちゃんと朝のうちにすませたものね」
「そうだぞ! ロビンと二人でゾロの分まで洗ったんだもんな」
顔を見合わせて笑うロビンとチョッパーへ、ルフィとウソップは揃って唇を尖らせる。
「なんだよ二人とも、ゾロばっかり贔屓して」
「そうだぞ! オレにも贔屓してくれよ」 
「そんなこと言っても、ルフィはみんなから贔屓されてるじゃないか」
「ルフィは船長だからな。こんなんでも」
「ウソップ、お前って時々オレに手厳しいよな」
「あら、ウソップだってコックさんから贔屓されてるじゃない。私たちぐらい、剣士さんを贔屓してあげないと……」
ロビンは笑みを浮かべてルフィに答えた。が、その顔を見たルフィは珍しく口をモゴモゴさせると麦わら帽子を目深にして、ふいにうつ向いてしまう。
ウソップが不振に思い下から覗き込むと、どういうわけかルフィは頬を赤く染めていた。
「なんだよ……ルフィ、お前どうしたんだ?」
「いや、その……ロビン!」
「なあに?」
きょとりと首を傾げたロビンに、ルフィは顔を上げずに指を突きつけ早口で捲し立てた。
「お前、そんな顔して笑うなよ、ズリィぞ!」
「え……?」
思いもよらないことを言われたロビンは、返す言葉がみつからず瞬きを繰り返すだけ。
そこに突如、風の塊が降ってきた。黒き風に遅れること数瞬、衝撃波と鈍い音が甲板を降るわせる。
「んなっ、え? は? って……ゾロッ!?」
敵襲かと肝を冷やしたウソップは、正体がゾロだと知って思わず安堵の息を吐いた。しかし次に目にしたゾロの動きに、息を吐いたそのままに、顎を外す程の大口を開けてしまう。
ゾロは、仁王立ちをして胸前で腕を組み、これでもかと眉間に深い皺を刻みつけ、ロビンを見上げるとため息と共に渋い声をあげた。
「ロビン……あれほど他の男の前でその笑い顔はやるな、って俺は言ったよな?」
「していないわよ」
「なら、なんでルフィが顔赤くしてんだよ?」
「さあ?」
「ったく、自覚が無ぇから余計に質が悪いぜ……」
苛立たし気に頭を掻くゾロとは対照的に、言葉通り、訳が分からないロビンはどうしたものかと、隣で笑いながら様子を見ていたナミに助けを求めた。
「ねぇナミちゃん……」
「ダメよ、ロビン。あたしのルフィを誘惑しちゃ」
「誘惑?」
「そうよぅ。アハハ! これじゃゾロが気にするのも無理ないわね。ねぇロビン、次に島に降りる時は気をつけなさいよ」
「ナミ! 余計なこと言うんじゃねぇッ!」
「なに言ってんのよ。アドバイスしてあげてるんじゃないの」
「二人とも、私を挟んで痴話喧嘩はやめてちょうだい」
「ほら見なさい。ロビン、ちっとも自覚ないじゃない。アンタが過保護過ぎるのよ」
「んなことあるかッ! 何度言ってもコイツが理解しねぇだけだ!」
茶化すナミの言葉に、ゾロは頭を掻きむしりながら反論する。終いには笑い転げるナミと喚くゾロに挟まれ困り顔で立ち尽くすロビン、という端から見たらなんだかよく分からない構図が出来上がっていた。
その様子を暫く黙って見ていたウソップは肩をすくめて首を左右に振ると、ルフィの背を叩いて立つように促す。次いでチョッパーを手招いた。年長組の様子を気にしながら近寄って来た彼に、人差し指を唇に当てて、仕草だけでキッチンに向かうよう誘う。
三人は足音を忍ばせて階段をあがり、できるだけ静かにキッチンのドアをくぐった。中ではサンジが不思議そうな表情を浮かべて迎えてくれたが、お構いなしだ。ただ、しんがりをつとめたウソップだけが、扉を閉める直前にようやく甲板へと声をかけた。
「ゾロもロビンも、島に降りた時には、どっちも気をつけろ! お前ら揃ってカワイすぎだぞ! 賞金稼ぎどもがうっかり惚れちゃったらどうすんだ!」
よく通る声音は、工房に篭るフランキーに笑みを浮かばせる程、大きかった。
ナミが降参とばかりに芝生に寝転がり、涙を滲ませて笑う。
「ウソップ、なに言ってやがんだ! こいつはともかく……俺がカワイイってどういう意味だ!」
「アラ、剣士さんはカワイイわよ」
「は?」
「アハハ! も、もうダメ! お腹イタ……ア、ハハハハ!」
ロビンは驚愕に目を見開いて自分とナミを交互に睨みつけるゾロに近寄ると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私の笑顔一つにも嫉妬してくれる剣士さんは、カワイイわよ?」
「……ッ!」
近すぎる距離に身構えた、その隙についばむようなキスを一つ、ゾロの頬に落とす。
一拍おいて、ゾロはされた場所を手で覆い、顔を赤く染めながらもロビンの細い腰を絡めとると、お返しとばかりに彼女の唇を己のそれで塞いだ。食らいつくように荒々しく息を重ねる。
二人とも大人びているが所詮は麦わらの一味で海賊で、つまりは楽しい事にはすぐに夢中になる人種なのだ。
甘い場面を眼前で見せられたナミは、目尻に溜まった涙を拭いながら、茶化した声で商談を持ちかけた。
「二人とも……それ以上する気なら、部屋貸すわよ。今日のおやつと引き換えにね」
「……借りるぞ」

即答したゾロに、ナミはもう一度笑うと、体に付いた草きれを払い立ち上がった。
「夕飯までよ。それじゃごゆっくり」
「ナミちゃん……貴方も本気なの? まだお昼を過ぎたばかりよ」
「関係ねェよ。さっきから言ってるように、お前は自覚が足りねぇんだよ。これからそれをしっかり教えてやるから、そのつもりでいろ」
ゾロはウソップ達の後を追うようにキッチンに消えたナミの背中を一瞥して、女部屋の入口へと足を向けた。何時もよりも幾分速い歩調に加え、逃がさぬようにロビンの腰を抱き寄せたまま、無言でドアを開ける。
「……自分の笑顔なんて、鏡でも見ない限り自分ではわからないわよ」
ため息混じりに呟かれたロビンの言葉は、聞こえない振りをした。



「ナミ。珍しいじゃないか、ゾロを煽るなんてまねして」
キッチンに入ってきたナミにウソップが含みのある笑いをのぞかせて疑問をなげかけてきた。ナミはその問いにウインクで返しながらテーブルではなく、壁際のソファに腰を下ろす。サンジがすかさず差し出したアイスティーを礼を言って受け取ると、ストローに口をつけながら答えた。
「だって互いに好きだってわかって、私たちにも報告しておいて、一緒になるのを遠慮してるのよ、あの二人。船も大きくなって部屋だって増えたのに、未だにどっちかが見張りにならないと一緒にならないなんて、もったいないじゃない」
「照れてんだろ……だいたいあの二人がお前とルフィみたいに、そこここで甘い空気作るのなんて想像出来ねぇし」
「そりゃそうだけど……アタシだってサンジ君があんたにするように、ゾロがヤラしい顔してロビンにイタズラするのを見るのはちょっとね」
「ナ、ナミさんッ!?」
「サンジ君、自覚ないでしょ? 二人だって、アタシに言わせれば、カワイイわよ」
「俺から見りゃオメェら全員、カワイイもんだぜ」
扉が開いて潮風と機械油の匂いを引き連れた船大工が親父臭い笑みを浮かべて入ってきた。
「フランキー」
「ま、誰かを好きになるって気持ちは、人に生きる力をくれるもんだ。オメェらもスーパーに青春を謳歌しな」
「おれもそう思う。素敵だよな! みんなキラキラして見えるから!」
「……海パンとタヌキに恋心の真意を語られるとは」
「おれはトナカイだッ!」
「海パンは関係ねぇだろッ!」
しみじみと呟いたサンジにフランキーとチョッパーはテーブルを叩いて抗議したが、どこか楽しそうだ。

ルフィはおやつのドーナツをありったけ口に詰め込みながら仲間を見ていたが、ジョッキの牛乳を一息に煽ると満足の息を吐いて、笑った。
ルフィの声に皆の視線が自然と集まる。
指に付いた砂糖を舐め取りながら、ルフィはナミを見て彼にしては珍しい、ヤラシイ笑みを唇の端に乗せた。
「まあ、こん中じゃナミが一番カワイイぞ。今でも、ベッドの中でも」
「言うねぇ、麦わら」
「こんの、クソゴム! ……その話は男部屋で後でクソたっぷり聞かせろ」
「サンジ君……じゃあアタシはウソップの話でも聞かせてもらおうかしら」
「イヤ、なんで俺だよ!」
自分の分のチョコリングを頬張りながら、甘い空気を撒き散らしてじゃれあう仲間を見ていたチョッパーが、そこへ爆弾を落とした。
「みんな、あいしあうのはいいけどな、子孫を残す気がないなら、避妊はちゃんとしろよ」
「ギャー! チョッパー、お前がそんな生々しい台詞を言うな!」
「俺はお前をそんなこと言う子に育てた覚えはねぇぞ!」
「だよな。サンジが教えたのはエロ本の仕舞い場所だもんな」
「クソゴムは黙ってろ! お前は、ウソップとは別の意味で一言多い」
「オメェが一番、何気にブラックだよな……」
それぞれに意味の異なる微妙な表情を浮かべて自分を見る仲間にチョッパーは淡々と返す。
「あのなぁ、おれは医者だぞ。大体みんなして普段、おれのことカワイイだとか子ども扱いするけどな、おれから見れば、みんなのほうがずっとカワイイぞ」
円らな瞳に愛しさを込められて見つめ返された兄貴分達は、
「いやいや……そんな」
揃って可愛らしく頬を染めて照れたのだった。

blog update:2008.03.01

蜜柑記念日

ナミお誕生日おめでとう

蜜柑記念日

豊作よ、とナミは嬉しそうに笑って籠一杯の蜜柑を差し出した。
サンジは甘い匂いを放つ宝の山を前に、彼女以上の笑みを浮かべ、キッチンに籠もった。
それが一週間前のこと。

「なんだコレ! キラキラして、すっきりした匂いがして甘いぞ!」
「こらチョッパー、あんまりピールばっかつまむんじゃねぇ。飯から食え」
「いい香り。ソースに使ったのね」
「さすがロビンちゃん、鶏の香草焼蜜柑ソース掛けです」
「サンジ! メインケーキが出てねぇぞ!」
「ディナーが先だ! だいいち、一緒に出したらテメェが一口で食っちまうだろうが!」
「んにゃ、さすがにあの大きさじゃ、頑張って5口ぐらいだ」
「それでも5口かよっ」
「あ、すげぇ美味ぇ、このブルスケッタ。さっぱりした感じがするのが蜜柑か?」
「わかってきたじゃねぇか、長っ鼻。そっちには、青切りを使ってみた。クソ美味いだろ」
「こちらのデニッシュもほっぺたが落ちそうな美味さですよ! って、私、ほっぺなんてないんですけど! ヨホホホホ」
「わかったから、もう少し綺麗な食べ方を心がけろよ! 毎回、なんでそんなに汚れるんだ」
「美味ェ。おい、サンジ、この魚ァ確か、臭みが強いはずだが、こいつも青切りとかいうのを使ってんか? フリッターになるなんてな。煮付けでしか食えねぇもんだとばかり思ってたぜ」
「ご名答、そっちには臭み取りに使ったのさ。程よい淡白さがいけるだろ?」
「おいコック。この酒、甘すぎるぞ」
「あ! テメェ、なに飲んでんだ! それはナミさんへのプレゼントだぞ!」
「サンジ君、このコアントローのゼリー、すっごく美味しい!」 
「んありがとう! ナミさんの言葉は最高級の黒いダイヤだよ!」
「サンジって、フェイント突かれると、例えが食い物関係になるんだな」
「職業病みたいなものかしら」
「一流だとああなんのかね」
「フランキーがクールだ」
「チョッパー、お前ちゃんと、飯を食え。さっきから、その蜜柑の砂糖煮ばっかじゃねぇか」
「ゲェップッ。失礼」
「ちょっとブルック、やめてよ」
「サンジ、ケーキ!」
「わかったよ、キャプテン。お待たせナミさん! 貴女の愛から熟成させた、特製蜜柑ケーキです!」
「ウソップ、火」
「了解!」
「ゾロ、切れ」
「お前な、せめて蝋燭吹き消すまで待てよ」
「んじゃ、フランキー、ブルック、演奏よろしく!」
「おうよ」
「お任せを!」
「チョッパー、ロビン、準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」
「ばっちりだぞ」
「そんじゃ、はじめるぞ! オレ達の航海士が生まれた日を祝って!」
「Happy birthday ナミ!」 

blog update:2008.07.03

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